moviestorage

映画、テレビ、ミュージックビデオ、ドラマなどのストレージメディア

『スリー・ビルボード』――一筋縄ではいかない、だから人は面白い

f:id:jamila-x:20180311151613j:plain

だいぶ前に観たことになるけど、スリー・ビルボードは2018年屈指の作品だった。
過去形で語ってしまっても大丈夫だと思う。『シェイプ・オブ・ウォーター』を観ていないので説得力無いが、作品賞を逃したのも不思議でならなかった(脚本賞『ゲット・アウト』だったので仕方ないか)。


物語の設定自体はシンプルだ。
娘をレイプされ殺された母ミルドレッドは、通行量の少ない道路にあった3枚の看板に意見広告を出し、警察の怠慢を糾弾する。看板の出現によって、その内容によって小さな町は揺れる。
糾弾された警察署長ウィロビーは死期が近く、彼を敬愛する警察官ディクソンは怒りに燃え、西部劇のような対立構造が生まれる。

ここまでは分かりやすいのだが、ここからの展開が素晴らしい。
人は面白い。一筋縄ではいかない。だからこそ信用できる。
登場人物の一面的な評価をこの映画は許さないし、それがすぐに、そしてあっさりと行き詰まりそうなこの映画を転がしている。海外ドラマを見るようになって、映画に感じていた物足りなさを埋めてくれる脚本だった。

ミルドレッドとディクソンは看板の在り方をめぐり激しく憎しみ合う。
観客は、憎しみ合う二人を観てどっちつかずな思いにさせられる。周囲の登場人物も少なからぬ被害に巻き込まれる。ミルドレッドの悲しみは理解できても行動は過激過ぎてついていけず、周囲から孤立していく(マイノリティーだけは心を寄せる、という設定はやりすぎ感あり)。ディクソンは差別的で無知で暴力的なホワイト・トラッシュだが、上司を尊敬し、警察官としての本懐を遂げようとする。

ただ、急転直下、二人は憎しみ合うことで少しだけ互いを理解する。
それは、分断し続ける世界へのちょっとした処方箋というと大袈裟だし、「共通の敵」を見出しただけともいえる。


今、坂元裕二の傑作それでも、生きてゆくを見ている。少年に妹を殺された被害者家族と、少年の妹の加害者家族が心を通わせる様が描かれるが、構造的に似ていると感じてビンジウォッチしている。
 

f:id:jamila-x:20180311151627j:plain

 

『15時17分、パリ行き』――高性能な本人出演再現ドラマの意図

f:id:jamila-x:20180311152029j:plain

先月頭に友人と観たが、イーストウッド翁が、どんな境地でこれを撮ってるのか分からないほど不思議な映画だった。

高性能な「本人出演再現ドラマ」を目指した実験であり、アメリカ人の呑気なヨーロッパ旅行ムービーであり、英語は地球語?であり、前二作より純粋なヒーローを描いた物語でもあり……。

飽きずに見られたのはイーストウッド組の的確な編集、カット割、時折出てくる美女のおかげか。「導かれるままに」的なセリフだけが脚色っぽく蛇足に感じるほど。
つまり、子供時代からの彼らの歩んできたすべてが、彼らをあの列車に乗せ、テロを防いだのだ、これは必然なのだ、という語り口。イーストウッドはそこにドラマを見出し膨らませたんだろうと。


彼ら3人があの列車に乗らなければ、テロで多くの人の命が失われた。
それが分かりやすく伝わる作りだっただけに、やっぱり「導かれるままに」は不要なセリフだったと思う。

  

f:id:jamila-x:20180311152044j:plain

自撮りしてる彼らを見て、「あれ、これ何の映画だっけ?」と思うことしばしば(笑)。 

 

 

f:id:jamila-x:20180422171840j:plain

トム・ハンクス主演で同じく実話を基にした前作ハドソン川の奇跡を観ていた友人は、イーストウッドが『パリ』に行き着いたのは自然なことだったと言っていた。

 


ということで見てみたが、これがまさに『アメリカン・スナイパー』と『パリ行き』を繋ぐ、後ろ脚が出てきたおたまじゃくしのごときつくりで、僕らは80超えたイーストウッドの進化を目の当たりにしているのがよく分かったのだった。

「アンビリバボー」な英雄的行為をリアリスティックに描いた事故のシーン(当事者本人も多く出ている)、疑惑の払拭という事実ではあるがややフィクショナブルな演出。『パリ行き』は『ハドソン川』よりシンプルに、リアルに、そして必然的に実験的になっていった。


改めて最近の作品を確認すると、イーストウッドは本人が最後に主演したグラン・トリノ以降実話物しか撮ってない。
歳というのもあるんだろうけど、イーストウッド本人が自身を最大の虚構だと自覚しているんだろう。で、自分が出ないなら実話だ、ならばもう役者ではなく本人が出ればいいのでは、と。


厳密に言うとヒア アフターは違うんだけど、スマトラ沖地震ロンドンのテロなど、実際に起きた出来事が感情を激しく揺さぶるキーになっている。また、「奇跡体験」的な切り口でいえば、『パリ行き』の方向性に最も近いのは『ヒア アフター』だ。
あの映画は震災直前に公開されたためタイミング的に本当不遇で、公開は早々に打ち切られ、一部の人には未だに正視し難い映像が続くのでご注意を。

 

ヒア アフター (字幕版)
 

Today's MV : くるり - その線は水平線

今日のMVはくるりの新曲「その線は水平線」。

クリストファーが叩いてた『アンテナ』の頃のくるりのようなミドルテンポのロック。ゴツゴツとしたギター、名曲「HOW TO GO」のようにいつまでも聴いていたいアウトロが漂泊の思いを掻き立て、素晴らしい。

女優の選択は謎だが、穏やかな海で水平線は綺麗。
是枝裕和が「監修」というのが気になる。

以下くるりと海といえば、そして思い出した名曲群。
くるりは今どこに向かっているんだろう。懐かしい感じだけど、とはいえこの曲が懐古的なつくりをしているわけではない。 

 

その線は水平線(10,000枚生産限定盤)
 
アンテナ

アンテナ

 

Today's MV : Jay Rock, Kendrick Lamar, Future, James Blake - King's Dead

久々の本日のMVは、大ヒットした『ブラック・パンサー』サントラから、ケンドリック・ラマー、ジェイ・ロック、フューチャー揃い踏み、ジェイムス・ブレイクがトラックを手掛けた?「King's Dead」。
あまりのカッコよさ、映像の見事さに言葉を失う。フューチャーのフロウ怪人ぶり!

前半のズームイン/アウトの手際の良さ、長回しをやるとこ、カットを割るとこの上手さはSZAの「The Weekend」にも感じたこと。
後半パート、交差点で加速度的にまくしたてるケンドリックもカッコよすぎる。

ケンドリック・ラマー、来日するんだよなあ。観たいなあ。
 

Black Panther: The Album

Black Panther: The Album

 

『赤い影』過去記事――不気味な予兆と暗示に満ちたスリラーの名作

f:id:jamila-x:20180326015738j:plain

スリー・ビルボード』でさりげなく使われていたこともあり、最近『赤い影』のことを目にすることが多いので過去記事掘り起こしました。
読み返すと、またぜひ観たいと思う傑作。

スリー・ビルボード』に限らず色んな作品に影響を与えているとのこと。

ichijyo-cinema.com

-------------------------------------------------------------------------


TSUTAYAで「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」 という企画がやっている。
こういうのは大抵見たことあるような定番ものや、単館系の「そりゃ知らねえよ」っていうものが面陳されていることが多いんだけど、見てもらえば分かるがこの企画は違った。

ビリー・ワイルダーの『情婦』とか鉄板ものもあるんだけど、「名前知ってるけどこれ面白いんだ」「こんな映画があるんだ」と、新鮮な驚きに満ちたラインナップで構成されている。
しかも、どれも「大人の鑑賞に耐えうる」と謳ってるだけあって渋くて良質そうな作品ばかり。


ということで借りてみたのが、デヴィッド・ボウイ主演『地球に落ちてきた男』のニコラス・ローグが監督、名優ドナルド・サザーランド主演のイギリス製スリラー、『赤い影』。
カットバックを大胆に使った冒頭を見ただけで「あぁこいつは天才だ」と思わずにはいられなかった。

 


幼い娘を水難で喪った夫婦が、考古学者の夫の仕事で訪れた「水の都」ヴェネツィアである姉妹に会う。
全盲の妹は霊感を持っていて、「あなたたちの間にずっと女の子がいて、微笑んでいる」と告げ、さらに妻に警告を加えるのだが――というのがあらすじ。

光都市というより、滅びゆく水の都として不穏な心を掻き立てるヴェネツィアの街の中で、とにかく全編不気味な予兆と暗示に満ちたショットが効果的に繰り出されていく。
水、鏡、目、死、そして時折フレーミングされる、赤い影――途中から、一つ一つのショットが何かを指し示しているんじゃないかと食い気味に見てしまうような、スリラーの醍醐味、いや、映画の醍醐味とも言っていい体験を味わえる映画だ。
「恐怖そのもの」よりも、イメージの増幅によってじわじわ恐怖が倍加させられたのは『シャイニング』以来かもしれない。
 
当時としては凝ったフラッシュバックやカットバックを多用している本作だけれど、特に目を引いたのが、『トリコロール/赤の愛』 のように時間軸というより「時空を超えたあるカット」を挿み込むことで物語のテンポを加速させ、運命論的終息へと結びつけることに成功していること。これがまた憎いほど巧い!

ラストは「えー(笑)、うわ、これはねえだろ!」と人によってはあっけにとられるか、怒るかもしれないぐらいのものではあるんだけど、ここも物語が一気に収斂される見事なフラッシュバックにみんな溜飲が下がるはず。

その他、当時物議を醸したとの濃厚なベッドシーン(でもエロくはない。ここも身支度をするシーンとのスムースなカットバック!)や、本作後デ・パルマ作品で名を上げたピノ・ドナッジオによる、哀しみと不安をひたすら煽る音楽も素晴らしい。70年代はまだまだ良作が埋もれていると痛感。