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この狂騒こそが主役ーー『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』

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最近、専ら映画ではなくNetflixで海外ドラマばかり観ている。
といってもちゃんと追えているのはブレイキング・バッド』『ハウス・オブ・カード』『ベター・コール・ソウル』くらい……。
通勤時間に少しずつ観ている程度だから、傑作と呼ばれる作品がドンドコ生まれている現状に全く追いついていない。
『マスター・オブ・ゼロ』『ナルコス』『ストレンジャー・シングス』『オザークへようこそ』『13の理由』『ザ・ミスト』ーー完全に途方に暮れている状態だ。

『ベター・コール・ソウル』シーズン1を観終えて、ちょっとアルバカーキから離れたいと思った時に、Twitterで激賞されていた『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』に行き着いた(結局弁護士(笑))。

O・J・シンプソンーーアメフトのスター選手/個人的にはカプリコン・1カサンドラ・クロスといった良質な70年代映画にも出ているスター/で、妻を殺して裁判にかけられた人

ぐらいの認識しか自分にはなく、果たして関心の湧かない事件の裁判ものなんか観て面白いんだろうかと思ってたんだけど、本作においては全く心配いらない。
なぜなら、O・Jが主役というよりかは、「O・J・シンプソン事件」が主役だからだ。このドラマを観て、すぐカッとなってまくしたてるO・Jに感情移入できる人はそう多くないだろうし、正直感情移入することをあまり必要としない(こいつなら殺したに違いない、とすら思える)。
正確にいえば、このドラマはO・Jが殺人者かどうかすら関心が無いようにみえることからして、O・J・シンプソンの裁判が巻き起こした狂騒」が主役といっていい。なぜ2016年にO・Jなのか、アメリカが分断を加速させている今、このドラマは繰り返しさらされるアメリカの闇を映し出している。

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『アメリカン・クライム・ストーリー』は、事件が起こった日からO・Jが無罪判決を受けるまでを、検察側と弁護側の対決、そして彼らに取り巻き、大きな影響を与える世論を交えて描いている。
さっきも書いたが、このドラマにおいて魅力的なのはO・Jでは全くなく、O・Jを取り巻く人物。誰にも感情移入できないが、ある時は同情し、ある時はざまーみろと思うような強烈なキャラばかりだ。彼らの言動がアメリカ全体を良くも悪くも動かし、やがて彼らも飲み込まれていく……。

O・Jを断罪せんとするも、自らも離婚裁判に足を引っ張られる女性検事マーシャ、良い奴でマーシャを支えるけど、正直者が仇となる検事クリスがタッグを組む検事側。
一瞬ジョン・トラボルタに見えなかったが、よーく見たらトラボルタな、風見鶏的弁護士シャピロ、狡猾なベテラン弁護士リー、常に胃腸弱そうな、あのキム・カーダシアンの父ロブら「ドリームチーム」と呼ばれた弁護士軍団も曲者ぞろい。
そして、最も濃いのは、敏腕黒人弁護士ジョニー・コクラン。顔面の圧、声の張り、白人化していたO・Jを「プロデュース」する手腕、そしてこの事件を利用して人種問題やロス市警の闇を全米に暴かんとする打算! 

弁護士軍団は、O・JのDV問題や証拠に基づいた検察側の主張を老獪なテクニックでかわしながら、陰謀という「物語」や人種問題を持ち出し、証拠の不備を突いて強行突破を図る。その様はヒールにも見えるし、弁護士の鑑にも見え(検事側も然り)、自分が陪審員だとしたら、どっちも本音と建前が凄すぎて審理無効にしたくなる(笑)。

検察側も弁護側も、「世紀の裁判」とされ、全米で生中継されたことによって名声を得る一方、公私にわたりマスコミに叩かれ、まさにO・Jと同じような目に遭うことになる。劇場型の裁判は世論を多分に意識したものとなったため、裁判所の外は常に分断が加速し、一触即発の様相を呈す。
文字通り互いに心身を削り合っていく様が後半描かれていくが、なりふり構わない対決に振り回される陪審員や判事の惨状が描かれる8話~9話もとても興味深い。

他のドラマと違い、次のシーズンは全く違う話らしいので少し気軽。
ぜひ観てほしい。

 

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