『マインドハンター』――サイコパス「録り」がサイコパスになる
傑作がひしめく海外ドラマ界でも今年屈指の注目作だった『マインドハンター』。
デヴィッド・フィンチャーが自ら4話も演出し、70年代プロファイリング黎明期のFBI捜査官を描いたサイコサスペンスは、その期待に違わぬスリルと重みを見せつけた。
この、画面いっぱいに映し出される地名(この、カンザス州パークシティの男は何をしでかしてしまうというのか……)、レコーダーを淡々とセットする映像にサブリミナル的に女性の死体が挿入される気色の悪いオープニング、記名性の無い俳優陣の感情を抑制した演技――『マインドハンター』は、清潔で、静謐で、スムースな、『ゾディアック』以降のフィンチャーの洗練を極めたような世界観で徹底されている。そこに『羊たちの沈黙』の設定を掛け合わせたような感じか。
『マインドハンター』では快楽殺人を扱うが、あくまで主体はそこからプロファイリングを見出そうとする捜査官の執着と苦闘を描く物語である。
そして、フィンチャーでは『セブン』『ゾディアック』以来のバディものでもある。サイコパスからの聴取を重ねるにつれ、相棒のベテラン刑事・ビルは自らの養子の問題(=わが子もサイコパスになるのではないか)と重なって恐怖と疲労が蓄積されていく。
一方主人公のホールデンは、快楽殺人犯の頭の中という、誰もが「分からない」「分かりたくない」ことにのめりこみ、プロファイリングによる捜査に手ごたえを得て、周囲がドン引きしてしまうほどの異様な自信をつけていく。
ホールデンのその姿は、『ソーシャル・ネットワーク』のザッカーバーグと重なるものがある。最も遠いと思われたサイコパスと心を通わせる一方、目の前の恋人や同僚とはうまくいかない。世界中の誰とも繋がることのできるシステムを構築した本人は、好きな女の子と「友だち」になれない――『マインドハンター』は、というかフィンチャーは、そんな本末転倒な人間のコミュニケーションの歪さを暴き続けている。
エド・ケンパーの存在感、半端無い。
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この本、昔すごい売れてましたよね。今さら気になる。