貴乃花は、ただ貴乃花なだけなのか
かち上げ&張り手を事実上封じられた白鵬、未だケガからの復帰が遠いというか事実上の引退がちらつく稀勢の里の両横綱が休場し、一人横綱となった鶴竜も圧巻の連勝街道が一転4連敗、気付けば平幕・栃ノ心が優勝をかっさらうという波乱の展開となった大相撲初場所。
満員御礼となった土俵の外では、行事・式守伊之助のセクハラ、大砂嵐の無免許運転、栃ノ心も所属する春日野部屋の何年も前の暴力事件が取り沙汰されるなど、未だ相撲人気に水を差す事件が相次いでいる。能町みね子の言葉を借りるならば、「リーク合戦」の様相をも呈している。
理事選が近づく中、いったん落ち着いたかにみえた貴乃花の身辺が再び騒がしくなった。貴乃花が解任されたばかりの理事選に再び立候補できるか瀬戸際らしいのだ。
貴乃花は、貴ノ岩の暴行事件を発端とする一連の騒動を大きくした張本人である。
もちろん暴力を振るった日馬富士が悪いんだけど、貴乃花がマスコミはおろか、協会にすら一切を語らなかったことで、皆、日馬富士や貴ノ岩のことはとうに忘れ、貴乃花と協会、その先にいる白鵬との対立関係ばかりがクローズアップされることになった。
そして、そんな貴乃花の行動に何を見出すかで、世論は二分されることになる。
「暴行事件が起きたら警察が捜査するのは当たり前」
「貴乃花はこうと決めたらとことん貫く頑固な人」
「貴乃花が協会に報告しなかったのは当然だ。貴乃花は協会の闇、そしてモンゴル互助会の欺瞞を暴こうとしている」
「協会の理事であり巡業部長でありながら、協会に報告しないあの態度は何なの?」
「顔つきもヤバいし、マフラーちゃんと巻けよ。ヤクザみたいやん」
「伊勢ヶ濱もヤクザみたいだけど、ちゃんと謝ろうとしたのに無視って……」
社会人の端くれとしていえば、貴乃花はいい歳になっても闘い方をわきまえていない。彼の言う「品格」が何を指すかは分からないが、到底大人な振舞いとは言えないだろう。
周りがフォローして、忖度して、なぜにこんなに胸中を探らなあかんのだと、ちゃんとしている人ほど思ってしまいがちである。
ただ、長年のウォッチャーからすると、これが貴乃花なのである。
世の中に、これほどまでに空気を読まないことで人を惹きつけ、人に嫌われる男も珍しい。被害者の親方だったんだから、普通にやればほとんどの国民が味方についたのに、そんなことすら眼中に無いのだ。強いて言えば、長嶋一茂なんかはよく似てる。
かつて、理事選に立候補するために二所ノ関一門を抜けた時には、そこに分かりやすい信念があったから、多少乱暴な動きがあっても安心できた。洗脳騒動→兄弟母子の確執の時も、「花田勝氏」「勝は私の軍門に下った」などの不器用極まりない名言に、在りし日の若貴は戻ってこないのだなという寂しさを超えたおかしみがあった。
一方、今回は引き際も見えず、ひたすら泥仕合が続いているように映る。
その先にある意図を語ってもいいと思うのだが、それも一切示すことなく、忘年会かなんかでは「捨てるなよ 戦いを 男なら 最後に勝つ者になろうじゃないか~」と裕次郎を歌い上げてみせる意味深ぶり。
自ら語ることなく、周囲から立った煙で協会や白鵬を追い詰める、というアプローチなんだろうか。だとしても自らにも刃が当たり過ぎである。
むしろ心配になるのは、これも能町みね子のツイートで知ったのだが、貴乃花部屋が長らく新興宗教団体の支援を受けているという事実である。
大阪場所ではこの団体が宿舎も提供し、千秋楽パーティーもこの団体が主催している……。
言われてみればそうだが、そもそも貴ノ岩は事件以降姿をくらましており、この新興宗教団体が匿っているのでは、という説すらある。
この宗教団体のホームページを見ると、この団体の思想のヤバさと、貴乃花部屋とのただならぬ関係が一発で分かる。
ただのタニマチだったらいいのだが、貴乃花の一連の行動が、洗脳に基づくものだったとしたら……それもまた貴乃花。
もう、どこまでいっても、いくつになっても放っておけない男だ。