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『赤い影』過去記事――不気味な予兆と暗示に満ちたスリラーの名作

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スリー・ビルボード』でさりげなく使われていたこともあり、最近『赤い影』のことを目にすることが多いので過去記事掘り起こしました。
読み返すと、またぜひ観たいと思う傑作。

スリー・ビルボード』に限らず色んな作品に影響を与えているとのこと。

ichijyo-cinema.com

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TSUTAYAで「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」 という企画がやっている。
こういうのは大抵見たことあるような定番ものや、単館系の「そりゃ知らねえよ」っていうものが面陳されていることが多いんだけど、見てもらえば分かるがこの企画は違った。

ビリー・ワイルダーの『情婦』とか鉄板ものもあるんだけど、「名前知ってるけどこれ面白いんだ」「こんな映画があるんだ」と、新鮮な驚きに満ちたラインナップで構成されている。
しかも、どれも「大人の鑑賞に耐えうる」と謳ってるだけあって渋くて良質そうな作品ばかり。


ということで借りてみたのが、デヴィッド・ボウイ主演『地球に落ちてきた男』のニコラス・ローグが監督、名優ドナルド・サザーランド主演のイギリス製スリラー、『赤い影』。
カットバックを大胆に使った冒頭を見ただけで「あぁこいつは天才だ」と思わずにはいられなかった。

 


幼い娘を水難で喪った夫婦が、考古学者の夫の仕事で訪れた「水の都」ヴェネツィアである姉妹に会う。
全盲の妹は霊感を持っていて、「あなたたちの間にずっと女の子がいて、微笑んでいる」と告げ、さらに妻に警告を加えるのだが――というのがあらすじ。

光都市というより、滅びゆく水の都として不穏な心を掻き立てるヴェネツィアの街の中で、とにかく全編不気味な予兆と暗示に満ちたショットが効果的に繰り出されていく。
水、鏡、目、死、そして時折フレーミングされる、赤い影――途中から、一つ一つのショットが何かを指し示しているんじゃないかと食い気味に見てしまうような、スリラーの醍醐味、いや、映画の醍醐味とも言っていい体験を味わえる映画だ。
「恐怖そのもの」よりも、イメージの増幅によってじわじわ恐怖が倍加させられたのは『シャイニング』以来かもしれない。
 
当時としては凝ったフラッシュバックやカットバックを多用している本作だけれど、特に目を引いたのが、『トリコロール/赤の愛』 のように時間軸というより「時空を超えたあるカット」を挿み込むことで物語のテンポを加速させ、運命論的終息へと結びつけることに成功していること。これがまた憎いほど巧い!

ラストは「えー(笑)、うわ、これはねえだろ!」と人によってはあっけにとられるか、怒るかもしれないぐらいのものではあるんだけど、ここも物語が一気に収斂される見事なフラッシュバックにみんな溜飲が下がるはず。

その他、当時物議を醸したとの濃厚なベッドシーン(でもエロくはない。ここも身支度をするシーンとのスムースなカットバック!)や、本作後デ・パルマ作品で名を上げたピノ・ドナッジオによる、哀しみと不安をひたすら煽る音楽も素晴らしい。70年代はまだまだ良作が埋もれていると痛感。