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『スリー・ビルボード』――一筋縄ではいかない、だから人は面白い

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だいぶ前に観たことになるけど、スリー・ビルボードは2018年屈指の作品だった。
過去形で語ってしまっても大丈夫だと思う。『シェイプ・オブ・ウォーター』を観ていないので説得力無いが、作品賞を逃したのも不思議でならなかった(脚本賞『ゲット・アウト』だったので仕方ないか)。


物語の設定自体はシンプルだ。
娘をレイプされ殺された母ミルドレッドは、通行量の少ない道路にあった3枚の看板に意見広告を出し、警察の怠慢を糾弾する。看板の出現によって、その内容によって小さな町は揺れる。
糾弾された警察署長ウィロビーは死期が近く、彼を敬愛する警察官ディクソンは怒りに燃え、西部劇のような対立構造が生まれる。

ここまでは分かりやすいのだが、ここからの展開が素晴らしい。
人は面白い。一筋縄ではいかない。だからこそ信用できる。
登場人物の一面的な評価をこの映画は許さないし、それがすぐに、そしてあっさりと行き詰まりそうなこの映画を転がしている。海外ドラマを見るようになって、映画に感じていた物足りなさを埋めてくれる脚本だった。

ミルドレッドとディクソンは看板の在り方をめぐり激しく憎しみ合う。
観客は、憎しみ合う二人を観てどっちつかずな思いにさせられる。周囲の登場人物も少なからぬ被害に巻き込まれる。ミルドレッドの悲しみは理解できても行動は過激過ぎてついていけず、周囲から孤立していく(マイノリティーだけは心を寄せる、という設定はやりすぎ感あり)。ディクソンは差別的で無知で暴力的なホワイト・トラッシュだが、上司を尊敬し、警察官としての本懐を遂げようとする。

ただ、急転直下、二人は憎しみ合うことで少しだけ互いを理解する。
それは、分断し続ける世界へのちょっとした処方箋というと大袈裟だし、「共通の敵」を見出しただけともいえる。


今、坂元裕二の傑作それでも、生きてゆくを見ている。少年に妹を殺された被害者家族と、少年の妹の加害者家族が心を通わせる様が描かれるが、構造的に似ていると感じてビンジウォッチしている。
 

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