『パラサイト 半地下の家族』――オスカーを制したブラック“階段”コメディ
ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞と主要部門を受賞する快挙を成し遂げた。
アメリカで異例のヒットを記録しているとは聞いていたが、まさか作品賞を獲るとは。
これがさらに凄いのは、パルムドールとアカデミー作品賞を同時受賞したのは1945年のビリー・ワイルダー『失われた週末』、1955年の『マーティ』以来。『マーティ』は全然知らないし、まあアカデミー賞が寄せてきた結果ではあるので、今後もこういった快挙が起こり得ると思う。
驚きだったのはその明快さ。
ポン・ジュノの作品をすべて観ているわけではないが、たとえば『殺人の追憶』や『母なる証明』は常に真実が霞み、不穏なものをゴロっと残したまま物語の幕を閉じていた。
だが『パラサイト』は、半地下の家族のイントロダクションから、彼らが見事な連携で金持ちの家に寄生するまで、そして家の秘密が明らかになると同時に噴出するジェットコースター的スリルに至るまで、丁寧過ぎるくらいの脚本や演出、流麗なカメラワークと編集によってすべて語り尽くしてくれる。こちらは何も考えずにこのブラックコメディに浸ればいいだけだ。
ただ、テーマである格差は、どう取り繕っても拭えない「臭い」という、観客にとっての不親切さで以て語られることになる。
(金持ちの奥さん役を演じたチョ・ヨジョン、めっちゃ美人)
『パラサイト』がパルムドールやオスカーを獲ることができたのは、ケン・ローチや是枝、そして『ジョーカー』と同じくグローバルな社会問題である格差を描いたからだといわれている。
『万引き家族』は、生きていくためになりふり構わぬ家族を描いた。『ジョーカー』はきつい階段を上るよりも、軽やかに下る(=悪)ことを描いた。
『パラサイト』は、半地下というソウル特有の貧困層を描き、黒澤明『天国と地獄』を参考に金持ちの家を丘の上に配置、さらにその地下の階段に壮絶なシチュエーションをつくった。この世の中には、さらに可視化されていない貧困があるかもしれないと思わせた。ポン・ジュノを象徴する大雨は上から下へ流れ、すべて半地下に流れ込む徹底ぶりだ。
ただ、最近厄介に思うのは、本当の金持ち(特に金持ちの子)は概して良い奴だったりするということ。
教育や礼儀も行き届いてるし、反抗心も無く素直。お金の無いふりもできる。
(それでも悪気無く出てしまったのが、「臭い」という生理的なものなんだと思うが)
格差問題を強調したい人にとっては厄介なことに、本当に「富はシワを伸ばすアイロン」なのかもしれない。
要は金持ちが一概に悪いのではなく、格差を生む構造に目を向けろということか。
ただ、金持ちが給与制度を変えればすぐに世の中変わる気もするからなあ。。
これは別件だけど、ポン・ジュノはイケメン俳優をいじるのが好き。
このエピソードもめっちゃおもろいし、的確。
授賞式でも彼のコメント力が冴えわたっていたが、成功の秘訣はこういった部分にもあるんだろうと思う。
映画怒りの時に李監督が韓国にいらっしゃって、当時パラサイトのポン監督と怒りについて舞台トークをした時に、ポン・ジュノ監督が「あの歩く傷みたいな俳優さんは誰ですか?」と、ずっとその後も「歩く傷の俳優さん」と名付けた俳優さんが綾野剛です。
— ビビンバ😋綾野剛🤗아야노고 (@bibim_goayano) 2020年1月17日