『ガキ使』ブラックフェイス問題でみえた、あまりにも深い分断
正月からずっとモヤモヤしてしまったのが、『ガキ使』の恒例企画「笑ってはいけない」で問題になった、「浜ちゃんブラックフェイス(黒塗り)問題」。
今日『ワイドナショー』があったので、これを受けてのニュースが一通り流れたらこの騒ぎは収束すると思うが、批判と擁護どちらもしっくりこなかった。松ちゃんがボケたように、「浜田が悪い」で切り抜けられたらどんなに幸せか。
◆主な批判意見
「人権後進国」「世界じゃあ常識」「文化的鎖国ぶりが露わ」
「ミンストレル・ショーを知ってるか?」
「オリンピックの開催を控える国とは思えない」
「逆にヒロシマ人の真似といってボロボロになった格好で笑いをとっていたらどう感じる?」→これ、ズレまくってるし、結構問題発言だと思うが
「あと、ベッキーへのタイキックは女性暴力といじめとパラハラを助長するものである」
◇主な擁護意見
「エディ・マーフィーの扮装をしているだけ」
「日本人に黒人への差別意識なんて無いのに」
「シャネルズやノッチは何も言われなかったのに」
「どんどんバラエティが面白くなくなる」
「こういうことを過剰に言う奴こそ差別を助長している」→これはよく言われることだが分からなくもない。
まとめてみて改めて思うが、互いにボロを出し合いながら溝を掘りまくっているのである。そして、自分のように、その溝が深く掘られ行くのをほとんど人が眺めつつ、ため息をついている人もいることを分かってほしい……。
ネット上で繰り返される論争は、今回のようにしばしば上から目線のポリコレVSリベラル大嫌いな保守の代理戦争にもなりがち。
ポリコレを重視する人は「無知なお前らに教えてやる」という傲慢さが言動に表れてしまうので、味方が増えていかない。これは、昨年の衆議院選挙や角界騒動の時にも感じた。
今回ややこしいのが、普段はそれぞれの陣営にいてもおかしくないお笑い番組のファンの存在だ。
彼らは常に「不謹慎だ」「規制すべき」という批判を番組が食らうと我が子を守るがごとく闘争本能に火が点きがち。で、「昔は良かったのに今回はなんでダメなんだ」と的外れな反論をして墓穴を掘っている人もいる。
仮にタブーが増えて行っても良い番組はそのスレスレで頑張ってるし(「フューチャークロちゃん」とか最高だったじゃん)、昔のテレビ番組を振り返っても結構面白くない番組多いよ。テリー伊藤がやってたやつとか破天荒なだけであって。
他と比べ、今回の騒動が大きなものになった要因は、これが問題であると声を挙げたのが日本に在住する黒人だったことだろう。それをハフポストが拾い、拡散、BBCやNYTが報じるに至った(彼ら自体は事実を報じているだけであって、オピニオンとして非難しているわけではない)。
「ブラックフェイスをやめろ」「黒人はオチじゃない」という当事者の声はちゃんと受け止める必要があると思う。その良し悪しは本当にあると思うが、差別をされる側、暴力やハラスメントを受ける側がどう捉えるかが重要ではあるし、する側はそれに気付けないことがほとんどだから事が起こるわけで。
ただ、それ以外の黒人の声を自分はちゃんと収集できていない。同様に怒りの声を挙げているのであれば、やはりそれは欅のナチスっぽい衣装やラッツ&スターとももクロの黒塗りパフォーマンス時のように、「タブー」としていかなければならないのだと思う。
つい最近も、H&Mが「ジャングルで最もかっこいいサル」と書かれた衣服を、黒人の男の子に着せて店が襲撃されたりしていたりと、差別を取り巻く状況はよりシビアで笑えないものになってきている。(これ言うと話がややこしくなるし、逸れるけど、黒人のアジア人差別は本当にひどい。アフリカとかに行ったら分かる。自分たちが差別されてきた歴史があるのにあれはどうかと思う)
それは、言うまでもなくトランプが状況を煽っているのである。(世界は日々シリアスに炎上しているのに、浜田・マーフィーは果たして本物の「火種」だったんだろうか、とは思えてならないが)
ダウンタウンや番組側に差別の意図は無い。けど、『ガキ使』を長年見てきた人なら、彼らが「黒人をオチに使ってきた」ことは知っているはず。
たとえば、最初の「笑ってはいけない」では2メートル級の黒人の板長や、温泉でパンツを探す黒人が出てきた。ボブ・サップが七変化に挑んで罰金と爆笑をかっさらっていったこともあった。
今や伝説的番組『ワールドダウンタウン』では、ダウンタウンの共演者は外国人のみで、アメリカのニュース番組をシニカルに捉えた内容だった。実は、そこにもエディ・マーフィーが出ていたりする(扮装ではなく本人役として)。ダウンタウンのファンとしては、エディで笑うのは初めてではないのだ。
日本人に黒人に対する深い差別意識は無いかもしれないが、少なくとも黒人の「異物感」はある。渋谷・新宿・原宿の一部ならともかく、普通の日本人にとって身近な存在ではないのだから。
かく言う自分も、黒人の板長でも、ボブ・サップの七変化でも腹がよじれるくらい笑ってきた。今見てもめちゃ面白い。黒人の板長が温泉旅館にいるわけがないと思ってるから。それが古いと言われれば、また、無意識のうちに差別感情が含まれているから笑うのだ、と指弾されるならば、もう、自分は「差別している」ということになるのかもしれない。
もし、黒人が板長になるのが当たり前の時代が訪れるならば、黒人の芸人がありふれた存在になるのならば、これらの演出はすべて「面白くない」ものになり下がると思う。板長はまだしも、見習いの黒人はいそうで、気分を害するものになっているのかもしれない。『みなさんのおかげです』のLGBT問題のように、価値観は急速に変わりつつある。
最後に話を変えると、ブラックフェイス問題より個人的には、今回の「アメリカンポリス」が前回の「科学博士」と比べ面白くなかったことの方が問題。
前回はサンシャイン斎藤や乳首ドリルに挑んだ西岡徳馬、原田龍二のアキラ100%など、ゲストが想像以上のポテンシャルを見せつけ、方正の笑い袋のくだりなど無限に笑えるような時間があった。
ここ数年は、
バス→引き出しもので潰し合い→レクリエーション→バス→鬼ごっこ→潰し合い→芸人の体当たり芸→蝶野ビンタ→驚いてはいけない
と特に固定化し過ぎているので、仲間同士の潰し合いと、ゲストがいかに面白いかにかかっているのだ。
書いても結局まとまらずモヤモヤするばかり。
とりあえず今年の年末は、この騒動自体をいじるような爽快なネタをぶっこんでほしい。
ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!(祝)ダウンタウン結成35年記念 Blu-ray 初回限定永久保存版(23)(罰)絶対に笑ってはいけない科学博士24時
- 出版社/メーカー: よしもとミュージックエンタテインメント
- 発売日: 2017/11/29
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
『ブレードランナー2049』――Why not me
『ブレードランナー2049』ようやく観た。睡眠不足と風邪で2時間40分、予想通り非常につらい鑑賞になった。
1カット1カットが長く、まるでタルコフスキーのように絵画的なロングショットが続くため、序盤から中盤にかけて別の記憶=夢を何度も刷り込まれそうに……。
前作も観直した上で観たけど、レプリカントと人間、そしてAIを分かつものは何か。物語が進行するにつれ、その境界線はさらに曖昧になって行く。
そもそも、デッカードはレプリカントなのかすら結局曖昧なのだから、「あの子」はレプリカント同士の子なのか、人とレプリカントのハーフなのかすら分からないままだ。
そして、副題にも入れたが、核爆発で廃墟となったラスベガスでライアン・ゴズリング兄貴扮するKはデッカードと会い、それまでのアイデンティティを揺るがす秘密を知ることになる。
Kに運命と物語を思いっきり吸わせ、とっても思わせぶりな流れだっただけに、このちゃぶ台ひっくり返しっぷりは相当ひどくて新鮮だった。
Kはまさにオアシス“Supersonic”の有名な一節「I Need To Be Myself I Can’t Be No One Else」のごとく、最後の戦いに臨む。そのシーズンの主役だったけど日本代表には選ばれなかった選手みたいな立ち位置で……。
荒涼とした『ブレードランナー2049』の世界で救いだったのは、アナ・デ・アルマスだろう。『ノック・ノック』(写真右)のサイコパスビッチと同じ女優だと言われないと気づかないほどかわいかった。まさに悪魔から天使。
スパイク・ジョーンズ『her』ともろ被り(パクリ?)なあの合体シーン然り、近い将来確実に流行るのはこんなパーソナイズできる機能を持つバーチャル恋愛AIなのだろう。レプリカントはきっと面倒くさい(笑)。
Today's MV : The National - 'The System Only Dreams in Total Darkness'
今日のMVは、だいぶ前に取り上げようと思って忘れてたThe National「The System Only Dreams in Total Darkness」。
アメリカのインディ―ロックの良心みたくなっている以外よく分かっていないながら、毎回なんだかんだでアルバムを聴いてしまうバンド。
ジョイ・ディヴィジョンのように暗くてコク深いヴォーカル、沈みこむような音色を基調としながら、この曲のようにポップでロックバンドらしいパッションを感じることのできるのが彼らの魅力だと思っている。前作のこの曲とか。
MVは、新作のカバーにもなった三角屋根の家に近付いていくだけというシンプルなつくりながら、真っ青なモザイクががっつり全編を支配するというもの。
均一なリズムと歪んだギターリフ、メロディが繰り返される曲によく合っている。
途中、最近こんなカッコいいの長らく聴いてなかったかもと思える素晴らしいギターソロの間、バンドの演奏シーンが家の窓から覗けます。
『彼女がその名を知らない鳥たち』――この清濁のエクストリーム感
蒼井優と阿部サダヲのW主演という、あくまで個人的にだがキャスティングに魅かれるものが全く無かった反面、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』と快作を飛ばし、来年には既に『サニー/32』『孤狼の血』という二つの話題作の公開を控えている、今邦画界で最も勢いのある白石和彌が監督というだけで観に行った『彼女がその名を知らない鳥たち』。
元カレ(竹野内豊)を引きずる女(蒼井優)が、女を一途に愛すること以外取り柄の無いような男(阿部サダヲ)と一緒に暮らしているが、女は男を受け付けない。それどころか、元カレを思い出させるような男(松坂桃李)と出会ったことにより、再び過去の記憶と交錯しながら過ちを犯していく。という物語。
原作がどんな内容か知らないが、さすが白石監督といった内容だった。
阿部サダヲ演じる男の、いつぞや観た韓流純愛映画のような清濁のエクストリーム感(たぶん『ユア・マイ・サンシャイン』→HIVに感染した売春婦と純朴な男の恋愛)。
これを純愛とみるか狂気とみるか。ネタバレになるのであまり書けないが、ミステリーも入り交じった、単純な恋愛映画ではないので、その判定がよく分からないままに、ただただ男の無償の愛に感動して泣いてる人もいれば、呆気にとられる人もいたのである……。
そして、蒼井優と松坂桃李の絡みは、二人のこれまでのイメージをぶっ壊す異常なエロさでびっくりした。
なんだあの舌入れキスは(笑)。これもキャスティングの勝利といえる。
ああやって胡散臭い「タクラマカン野郎」に引っかかって、大事な愛に気付けない女、本当いるよね……。
『ゲット・アウト』――2017年に観るべき衝撃コメディホラー
「レイシズムブラックコメディーホラー」とでも呼ぶべき、トランプが大統領になった2017年に観るべき衝撃作だった。そもそも、トランプが大統領じゃなかったらこんな作品生まれなかったかもしれない。
何を書いてもネタバレだが、コメディーというか風刺的発想を元に本を書いたら、ホラーになってしまったという感じ。
まさかの展開含め、全場面、演出次第で完全にコメディーにできてしまう。コメディーとホラーは表裏一体。監督はコメディアンらしく妙に納得した。
-----------------------------------------以下ネタバレあり。
黒人の男と白人の女による恋愛というある種の幻想、「オバマに投票している」と言いつつ黒人を使用人にする一家(これには『悪魔のいけにえ』ばりに異常な思想によるものだということが分かるわけだが)、黒人を肉体=「器」として評価しつつ、心=「中身」を顧みることがない身勝手な差別意識は、スポーツ界を席巻する黒人アスリートへの視線と同じか。
にしても、日本版ポスターのように主人公が目をひん剥くシーンあったかな。
これのインパクトが強過ぎて興味が湧いたのもあるけど、やり過ぎかなあ。