Today's MV : The National - 'The System Only Dreams in Total Darkness'
今日のMVは、だいぶ前に取り上げようと思って忘れてたThe National「The System Only Dreams in Total Darkness」。
アメリカのインディ―ロックの良心みたくなっている以外よく分かっていないながら、毎回なんだかんだでアルバムを聴いてしまうバンド。
ジョイ・ディヴィジョンのように暗くてコク深いヴォーカル、沈みこむような音色を基調としながら、この曲のようにポップでロックバンドらしいパッションを感じることのできるのが彼らの魅力だと思っている。前作のこの曲とか。
MVは、新作のカバーにもなった三角屋根の家に近付いていくだけというシンプルなつくりながら、真っ青なモザイクががっつり全編を支配するというもの。
均一なリズムと歪んだギターリフ、メロディが繰り返される曲によく合っている。
途中、最近こんなカッコいいの長らく聴いてなかったかもと思える素晴らしいギターソロの間、バンドの演奏シーンが家の窓から覗けます。
『彼女がその名を知らない鳥たち』――この清濁のエクストリーム感
蒼井優と阿部サダヲのW主演という、あくまで個人的にだがキャスティングに魅かれるものが全く無かった反面、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』と快作を飛ばし、来年には既に『サニー/32』『孤狼の血』という二つの話題作の公開を控えている、今邦画界で最も勢いのある白石和彌が監督というだけで観に行った『彼女がその名を知らない鳥たち』。
元カレ(竹野内豊)を引きずる女(蒼井優)が、女を一途に愛すること以外取り柄の無いような男(阿部サダヲ)と一緒に暮らしているが、女は男を受け付けない。それどころか、元カレを思い出させるような男(松坂桃李)と出会ったことにより、再び過去の記憶と交錯しながら過ちを犯していく。という物語。
原作がどんな内容か知らないが、さすが白石監督といった内容だった。
阿部サダヲ演じる男の、いつぞや観た韓流純愛映画のような清濁のエクストリーム感(たぶん『ユア・マイ・サンシャイン』→HIVに感染した売春婦と純朴な男の恋愛)。
これを純愛とみるか狂気とみるか。ネタバレになるのであまり書けないが、ミステリーも入り交じった、単純な恋愛映画ではないので、その判定がよく分からないままに、ただただ男の無償の愛に感動して泣いてる人もいれば、呆気にとられる人もいたのである……。
そして、蒼井優と松坂桃李の絡みは、二人のこれまでのイメージをぶっ壊す異常なエロさでびっくりした。
なんだあの舌入れキスは(笑)。これもキャスティングの勝利といえる。
ああやって胡散臭い「タクラマカン野郎」に引っかかって、大事な愛に気付けない女、本当いるよね……。
『ゲット・アウト』――2017年に観るべき衝撃コメディホラー
「レイシズムブラックコメディーホラー」とでも呼ぶべき、トランプが大統領になった2017年に観るべき衝撃作だった。そもそも、トランプが大統領じゃなかったらこんな作品生まれなかったかもしれない。
何を書いてもネタバレだが、コメディーというか風刺的発想を元に本を書いたら、ホラーになってしまったという感じ。
まさかの展開含め、全場面、演出次第で完全にコメディーにできてしまう。コメディーとホラーは表裏一体。監督はコメディアンらしく妙に納得した。
-----------------------------------------以下ネタバレあり。
黒人の男と白人の女による恋愛というある種の幻想、「オバマに投票している」と言いつつ黒人を使用人にする一家(これには『悪魔のいけにえ』ばりに異常な思想によるものだということが分かるわけだが)、黒人を肉体=「器」として評価しつつ、心=「中身」を顧みることがない身勝手な差別意識は、スポーツ界を席巻する黒人アスリートへの視線と同じか。
にしても、日本版ポスターのように主人公が目をひん剥くシーンあったかな。
これのインパクトが強過ぎて興味が湧いたのもあるけど、やり過ぎかなあ。
フィンチャー近作レビュー寄せ集め
『マインドハンター』について書いたので、ついでに過去に書いたフィンチャー作品のレビューをまとめてみた。
『ゾディアック』以降全然評価してないというか、すれ違ってきていて、それがなぜなのかも何となく分かって、『ゴーン・ガール』『マインドハンター』でようやくフィットしてきた感じか。『ゾディアック』またちゃんと観たい。
全部押さえていると思ってたら『ベンジャミン・バトン』は観てなかった。
①ゾディアック
レイトショー。何だか煙に包まれたような心地で帰ってきた。
出すもの出すもの世にセンセーショナルな話題を振りまいてきたデヴィッド・フィンチャーが、意外にも今回は真っ当なドラマで勝負してきたことへの驚き、それでなお観客に重たいインパクトを残す彼の作家性の健在っぷりゆえか。
60~70年代にアメリカ全土を震撼させた劇場型犯罪の先駆け、あの『ダーティ・ハリー』のネタ元にもなった迷宮入り事件を取り上げたと聞いては、「またフィンチャーがやったったか!」と思ってしまうのも無理はないし、実際スキャンダラスなシーンを目的に映画館に足を運んだ人もいたと思う。
ただ、フィンチャーが『セブン』でやり尽くしたことを単純に繰り返すわけがなく、『ゾディアック』は連続殺人事件の謎を追ったがために、人生を大きく狂わされる男達にフォーカスを当ててきた。シリアル・キラーの狂気なんかより、ずっと身近で親愛なる狂気に。
構造上、サスペンス/スリラーにありがちな興味を早々に失うので、「男って、いつまで経ってもこうなるよなあ」と事件の謎に取り憑かれ、袋小路に迷い込む男子を眺めるしかない。
SNSは、人の心の隙間を埋めたのか、広げたのか。功罪は自分にもまだ分からない。
フェイスブックの誕生秘話を描いたとされる本作。通常の映画の何倍もの情報量を込め、現代そのものを表象しようとした脚本のアーロン・ソーキンと、『ゾディアック』以降の、ギミックを廃し、全く隙の無い構図でフレーミングするフィンチャーの手腕がこれでもかと示された、とても力強いプレゼンテーションだった。
真偽の程は怪しいが、この話の面白いところは、現実でほとほとまともなコミュニケーションを築けない男が、気付けば5億人を超える、世界最大のユーザー数を誇るSNSを構築してしまったところにある。
しかしながら、映画を観ていても彼の頭の中は一向に読めないし、この映画のザッカーバーグはどう見ても友達がいなくても問題無く生きていける類の男である。弱さや繊細さを見せつける奴ではないのだ。(なのにそういう風にけしかける演出を施しているのはちょっと気になるところでもある)
ザッカーバーグが寝食を忘れコードを打ち込み築き上げたネット上の「帝国」は、本当に自分をフった女を見返してやりたいとか、ハーバードのクラブに入っているファッキンエリート野郎の鼻を明かすためなんだろうか……。まるで、モテたい一心でバンドを組む少年と同じような無邪気さで以てフェイスブックを立ち上げたのだろうか。映画を観たザッカーバーグの、「ハリウッドは、シリコンバレーの連中が、それをただ作りたいから作った、ということを理解していない」というこの発言が、結局のところすべてじゃないのか。
ザッカーバーグを突き動かしたのは「このサイトを創ることをできるのは自分しかいない」という、創造への執着心と使命感だ。彼には「見えて」、友人のエドゥアルドには見えなかったのだ。だから、「孤独」になることを選んだ。
彼や彼の周囲で起こる出来事は、明確なヴィジョンとそれを具現化する技術を併せ持つ天才の「業」そのもので、この映画は「古典的」とすら言ってもいいテーマを現代に翻案し、延々と描いているに過ぎない。
ラストは、これまでのフィンチャー作品と同様に強烈だ。
僕らがパソコンの画面と向き合っているとついついやってしまう、あの動きこそ、ソーシャル・ネットワークという発明を象徴するものだし、この10年を規定するコミュニケーションそのものだった。
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フィンチャーの「巧としての上手さ」は言うまでもないし、寒々とした北欧スウェーデンの雰囲気バリバリの画作りも素晴らしかったんだけど……といういつもの感想に陥ってしまう。
あっさり味に作られてるから、うわぁどぎついわあと思えることまであっさりなことに感じてしまうのだ。
唯一あっさり看過できなかったことは、やはりあのモザイク! 逆にあれを超えるギミックは存在しなかった(笑)。
リスベットを演じたルーニー・マーラは、近寄りがたい真のパンクでありサイコでありながら、女を忘れてないという複雑な役柄を熱演。
スレンダーな体してるんだけど妙にエロティック。スウェーデン版でリスベットを演じ、『プロメテウス』に出るなど出世したノオミ・ラパスと全然違うらしくて「女ウケ狙ったキャスティングだ」と言ってる人もいたけども。
「名家に隠された闇(病み)」という、ちょっと古臭さを感じるモチーフで、なぜにここまで原作が世界的にヒットしたのか個人的に理解できないし、『セブン』というサイコ・スリラーの傑作を撮った監督が挑む題材としてどうなんだろと思った次第。
まあ、事件に取り憑かれ、引き返せなくなってしまう男という点において、『ゾディアック』と共通してるのかな。
『ゴーン・ガール』は2014年ベストにしたぐらい最高だった! なのに書いてない!
最も身近な恐怖=妻という題材に震えたのかも。
うだつの上がらないベンアフに、ひたすらしたたかなロザムンド・パイク、スピーディな編集やトレント・レズナーの匠の域に達したスコアなど、素晴らしいポイントはいくらでもあるが、何より恐ろしかったのは映画がいつまでも終わらないこと。つまり地獄がいつまでも続くのではと思わせたことだ。
『マインドハンター』――サイコパス「録り」がサイコパスになる
傑作がひしめく海外ドラマ界でも今年屈指の注目作だった『マインドハンター』。
デヴィッド・フィンチャーが自ら4話も演出し、70年代プロファイリング黎明期のFBI捜査官を描いたサイコサスペンスは、その期待に違わぬスリルと重みを見せつけた。
この、画面いっぱいに映し出される地名(この、カンザス州パークシティの男は何をしでかしてしまうというのか……)、レコーダーを淡々とセットする映像にサブリミナル的に女性の死体が挿入される気色の悪いオープニング、記名性の無い俳優陣の感情を抑制した演技――『マインドハンター』は、清潔で、静謐で、スムースな、『ゾディアック』以降のフィンチャーの洗練を極めたような世界観で徹底されている。そこに『羊たちの沈黙』の設定を掛け合わせたような感じか。
『マインドハンター』では快楽殺人を扱うが、あくまで主体はそこからプロファイリングを見出そうとする捜査官の執着と苦闘を描く物語である。
そして、フィンチャーでは『セブン』『ゾディアック』以来のバディものでもある。サイコパスからの聴取を重ねるにつれ、相棒のベテラン刑事・ビルは自らの養子の問題(=わが子もサイコパスになるのではないか)と重なって恐怖と疲労が蓄積されていく。
一方主人公のホールデンは、快楽殺人犯の頭の中という、誰もが「分からない」「分かりたくない」ことにのめりこみ、プロファイリングによる捜査に手ごたえを得て、周囲がドン引きしてしまうほどの異様な自信をつけていく。
ホールデンのその姿は、『ソーシャル・ネットワーク』のザッカーバーグと重なるものがある。最も遠いと思われたサイコパスと心を通わせる一方、目の前の恋人や同僚とはうまくいかない。世界中の誰とも繋がることのできるシステムを構築した本人は、好きな女の子と「友だち」になれない――『マインドハンター』は、というかフィンチャーは、そんな本末転倒な人間のコミュニケーションの歪さを暴き続けている。
エド・ケンパーの存在感、半端無い。
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この本、昔すごい売れてましたよね。今さら気になる。