『メッセージ』ーー言葉は分断と時空を超える
6月頭に観たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF『メッセージ』について。
ヴィルヌーヴとの相性は全然よくないけど、本作はSF映画らしからぬ感慨が押し寄せる力作だった。宇宙に行かないSFはあるけど、生命すら脅かされることのない(とはいえ危険が迫るシーンはあったが)SFは珍しい。
突然世界各所に現れた「ばかうけ」のような宇宙船に動揺する世界と、そんな中で宇宙人との会話を探り探り試みる女性言語学者ルイーズを描いた本作。
分断された世界を繋ぐ言葉とは、思想とは、勇気とは。そんな2017年とも相通ずる課題をこねこね考える一方で、意外にも本作はあたかも『君の名は。』のように、時間軸のミスリードが観る者にエモーショナルに突き刺さる流れにもなっている。
言葉の力は分断を超えられる、までであれば、理知的なSFだったね、でも物足りないね、で終わったのだが、宇宙人の言語を解読するにつれ、彼らの言語には現在・過去・未来の概念が無いことが分かり、物語は一気に活性化する。
つまり、彼らは時空を超える存在なのだ。それが解決と和解のキーになり、そしてルイーズの人生に大きな影響を及ぼす。
『メッセージ』は、なんやかんやですれ違ってきたヴィルヌーヴ作品の集大成的なつくりだった。
宇宙人は『複製された男』のクモだし、音響の素晴らしさは『ボーダーライン』、謎に向かうベクトルの強さは『プリズナーズ』。
あとはやはり「時間」「宇宙」というキーワードからノーランの『インセプション』や『インターステラー』がちらつく。