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逃げるは恥だが役に立つーー『ダンケルク』

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聞きしに勝る、陸海空恐るべき「映像体験」だった。

ダンケルククリストファー・ノーランの新境地ともいうべき作品だ。
凄まじい音響や、終始戦場に流れ続けるハンス・ジマーのローきつめのスコアとは対照的に、戦場という理屈抜きの地獄を前に、ノーランは理屈を捨て、IMAXの力も借りて言葉少なく観客を戦場のただ中に放り込んだ。

戦争映画としても『ダンケルク』は異色だ。
プライベート・ライアン以降当たり前となった、目を背けたくなるような人体破壊描写は一切無い。主人公は銃を持たず、ほとんど「戦わない」(戦える状態にない)戦争映画は、常に死と隣り合わせ、行き当たりばったりの撤退をスリリングに描く。

 

ノーランは一貫して「時間」と向き合ってきた映像作家だ。
メメントは10分しか記憶を保てない主人公に寄り添うように、物語が逆行するという奇抜な設定を見事に整理し、インセプションでは夢の世界を階層化し、かつ時間の流れをそれぞれ変えてラストのアクションにこれまでにないスリルを与えた。そしてインターステラーでは必然ともいえるが、「宇宙」の中に流れる時間を残酷に、そして美しく可視化してみせた。

ダンケルク』は、一部宣伝文句で「タイムサスペンス」と呼ばれている。陸(1週間)・海(1日)・空(1時間)の時間の長さを分け、それぞれの視点で運命を交差させている。これも戦争映画としては異例だ。
3つのシークエンスそれぞれに流れる時間が違うことは、そのまま歩兵の悲惨さを浮き彫りにした。ドイツ軍の猛攻から命からがら逃げた先に待ち受ける桟橋の長い長い列。そこを集中的に空爆され、運良く船に乗れても魚雷や空爆から逃れることはできない。船から投げ出され、また船に乗るの繰り返し。
心身ともに崩壊寸前で、表情に乏しい歩兵たちに対し、海兵やパイロット、遊覧船で救出に向かう民間人は使命感に燃えエモーショナルなことを言う。
地獄の最前線は、人間性をかくも奪う。